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プロローグ

「兎角、努力を続ける事だ。お前の答えはお前にしか見つけられぬ。まずは行動を変えなさい。そしてその行動を習慣にしなさい。努力が身を結ぶ時まで。いつ来るとも知れぬお前の生きる理由が現れるまで」
 遠い日の記憶。顔も覚束ない恩師の言葉。
 ただ、優しい顔をしていたのを覚えている。身寄りのない自分を引き取り、全てを教えてくれた人。自分の憧れだった人。
 その人の教えに従い、ただただ日々努力を積み重ねてきた。積み重ね、考え、研鑽し、見直し、更に積み重ね、それを習慣とした。自分にはまだ、それしか生きる理由がなかった。
 心が折れそうになれば、恩師の言葉を思い出した。自分をやらなくてはならない環境へと追いやる事もした。全てを投げうつ事で後には引けないようコミットメントをした。手間も時間も体も関係も全てをつぎ込んだ。
 いつしか、時も、次元も、他人も、自分自身ですら、置き去りにした末、遂に辿り着いてしまった。
 高み。そこから見える景色はどんな風なのだろうか。想い馳せた日々もあっただろう。しかし自分の高みには……。
――何もなかった――
 空、大地。広がる地平。
 草木一本生えていない虚無の世界。そんな自分の世界に立ち尽くしながら、もはや思い出せぬ恩師の顔が脳裏に浮かぶ。
『答えはお前にしか見つけられぬ』
「私には、何もありませんでしたよ……」
 虚無の大地へと落ちていく言葉。空へ昇っていく感情。零れた言葉も想いも、世界に溶け虚無≪ゼロ≫へと消えた。
 自分が既に悲しいのか、怒っているのかさえ分からぬ彼は、呼び出しの印を手に余し、一度転がしてみた。内部に込められた神秘が乱反射し、彼の目を惹く。これまで彼が幾度となく拒絶してきた招集。彼は応じる事を決意した。
「今こそ応じよう。≪高みを扱う者達≫よ」